宇治久世教研中学校分科会
公立高校の新しい入試制度とその問題点
2013/10/26 Sat プラムイン城陽
東宇治中学校分会 田中正浩
 
1.はじめに
 2004年度入試に南北山城通学圏の統合、「特色選抜」の導入、単独選抜といった大改革がなされて10年目の今年度、京都府・市教委はとうとう新制度を京都市・乙訓通学圏に拡大、大幅な入試制度の変更を強引に導入してきた。
 山城通学圏ではこの10年間、高校間格差が拡大・固定化し、中学校の進路指導が繁雑を極め、学力による差別・選別の進路指導へとの傾向を強めてきている。今回の制度変更がこれらの矛盾を京都府全体へとさらに拡大させるものになることは明白である。ここでは新しい高校入試制度がどのようなものかを明らかにするとともに、予想される問題点を洗い出そうと思う。
 
2.公立高校入学者選抜制度の概要
 (1)前期選抜
 従来の「推薦入試」「特色選抜」「適性検査」を「前期選抜」に名称変更。各高校、学科ごとに選抜。報告書、学力検査、面接、作文又は小論文、活動実績報告書及び実技検査の中から検査項目、配点及び内容は高等が定める。普通科のほとんどが報告書(9教科135点満点)と共通学力検査(国数英150点満点)およびその他(面接または作文と活動実績報告書)で判定するが、「その他」の配点は50(城陽A)〜270(田辺B)と様々。
 従来の「第V類」は「スポーツ総合専攻」「美術・工芸専攻」に名称が変更になり、学力検査の他に実技検査を実施。定員の100%を募集する。
 専門学科は共通学力検査とは別に独自検査を実施するところが多く、いわゆる「職業学科」は50〜70%、「その他の専門学科」は70〜100%を募集。
 学力検査等は2月17日(月)(と一部は18日(火))に実施。合格発表は2月24日(月)に各高校で。
 (2)中期選抜
 従来の「一般選抜」を名称変更。前期で100%募集しない学科で実施。従来どおり5教科の共通学力検査(200点満点)と報告書(9教科195点満点)で判定。選抜方法は山城通学圏では定着している「2段階選抜」。全日制普通科で「2次選抜」を行う場合がある。
 学力検査等は3月7日(金)、合格発表は3月17日(月)。
 (3)後期選抜
 従来の「第2次募集」。学力検査等は3月24日(月)、合格発表は3月26日(水)。
 
3.いくつかの疑問・指摘
 (1)前期選抜について
 「バラバラだった推薦、特色、適性を1つに統一」と府教委は説明したが、かえって煩雑な制度になっている。選抜方式、募集割合、検査項目、配点、日程がそれぞれバラバラである。
 (2)中期選抜について
 京都市・乙訓通学圏とそれ以外で「ステップ1」の割合が違うのはなぜか。(90%と85%)
 普通科・専門学科を問わず願書が統一され、最大3学科まで記入できることになった。たとえば第1志望第1順位に「莵道高校普通科」第2順位は「田辺高校工業技術科」第2志望に「木津高校システム園芸科」といった書き方も可能である。しかし、これでは「○○がしたい」からこの学科に入りたいではなく、どう書いたら高校に受かりやすいか、という方向に向かわないか。
 (3)その他
 生徒数に対する定員の割合が年々減少している。京都府全体では23年度選抜74%→24年度選抜71%→25年度選抜69%→26年度選抜67%(山城通学圏全日制は62%→60%→58%→56%)
 山城通学圏での「実験」の検証はなされたのか。また、総合選抜を廃止した京都市・乙訓通学圏の1年間は、そして類・類型制についてはどのような総括がなされたのか、全く明らかにされないまま、トップダウン方式で改革がごり押しされている。しかもテンポが遅く、後手後手の感が否めない。(「3月中に配布する」と言っていたリーフレットが4月に入ってからになる/「前期選抜要項が9月下旬に冊子になって各校に届く」と言っていたのに10月に入っても届かない(ダウンロードはできるが…)/など)
 
4.今後心配されること
 今回の制度変更にあっては京都府教委の混乱ぶりが隠せない。日程の遅れにとどまらず、いろいろな点で破綻が垣間見られ、場当たり的な対応があるように感じる。たとえば4月と9月で「募集割合」が変わっている、といった点である。また、表向きには「推薦」が廃止されたにもかかわらず、体育コースを中心に実質上は従来どおりのやり方がまかり通っている。これでは生徒・保護者はもちろん、中学校の進路指導にあたる教師にとって、先が見通せず、重大なミスにつながらないか、不安が募る一方である。
 前期選抜における英数国の「共通学力検査」はどの程度のレベルの問題なのか、高校側にもまだ提示されていないと聞く。
 さらに、京都市内とそれ以外との歩調の不一致も目に付く。中期選抜のステップ1の割合にとどまらない。今後大きな問題になりそうなのが「希望調査」の取り扱いについてである。通学区域が広域化するにつれ、地域間での統一した進路指導が求められるが、それがますます困難になるであろう。
 毎年コロコロ変わる入試制度に現場の教師は追いつくのが精一杯で、一人ひとりの将来を見通したていねいな進路指導がしづらいのが現状ではなかろうか。生徒・保護者にしても、上の子のときと状況が一変していて参考にならないのでは主体的な進路選択はしにくいだろう。三者面談で「先生、うちの子、どこの高校なら行けますか。」「さあ、そう言われても去年までとは違うので…」というような会話があちこちで交わされるに違いない。
 公立高校が覚束無い状況では私立高校の併願受験(滑り止め)が頼りになる。公立普通科が単独選抜になるまではそうでもなかったが、今ではほとんどの生徒に併願受験を勧めている。国の「授業料無償化」制度にともない、京都府は私学に対しても「あんしん修学支援制度」を設けているが、自公政府は所得制限を設ける考えであり、保護者にとってはこの点でも「ふあん」が募るところである。