田中ひろ子のノボシビルスク通信(4)
(「日本とユーラシア大阪府連版」2009年3月15日号掲載)

ロシアの伝統! 事前の計画など無意味?

ロシア人の意識が経済発展とともに西欧化するかどうかを考えるとき、「前もって何も計画してはならない」という伝統と、「責任感の欠如」、そして「お金は労働の対価ではなく、突如現われてすぐ消えるもの」という特異な金銭感覚が障害になると思われます。 私は11月末、冬休みに日本に帰国するために購入済であった航空券をより安いものに交換してもらうために、行きつけの旅行代理店(A社)へ行きました。ところがA社では数日前からシベリア航空(S7)とのラインが故障中。工事業者が2日前に来る約束だったのにまだ来ていないらしい。安いチケットは浮上してはすぐに消えるのでS7に直接行って交換した方がよいとアドバイスされ、私は零下25℃の中S7へ向かう。ところがS7では「チケット交換や返金は販売したA社の責任」と言う。再びA社へ。A社は「返金はするが、ライン故障で返金額がわからないのでS7に聞いてほしい」と言う。S7へ。新しいチケットを購入し、旧チケットの返金額を尋ねるが、「それはA社の問題。私たちには関係ない」と言う。こうなればA社とS7のラインの回復を待つしかない。ちょうどそのころ娘の杏菜が2月にポルトガルであるバイオリンコンクールに参加することが決まっていて、A社にフランクフルトまでのアエロフロート航空(SU)のチケットが予約してあった。A社は経済危機の影響でカード購入ができなくなっていたので、S7の返金をポルトガル行きのチケット購入に当てるつもりだが、4日たってもラインは回復しない。そうこうする内にSUの予約期限切れが迫ってくる。A社に毎日電話する(むこうからはかけてこない)。ようやくラインが回復したのはSU期限の前日。ところがA社に行ってみると「返金はするけど、チケットを打ち出す用紙がない」と言う。A社は顧客の99%が大企業や国立の教育研究機関だが、彼らが代金を払ってくれないので用紙を買うお金がない。何とかすると言って、親しいB社に飛脚を走らせ発券を依頼。ところがB社のオペレータが間抜けなのか、すでに12歳になっている杏菜の航空券を小人料金で発券するミス。再度飛脚を走らせる。そこにいないとうやむやになることを知る私は「今日絶対航空券を手にしたい」と4時間座り込み。ようやく念願の航空券をもらって帰宅。ところが翌日SUのその便がフライトキャンセルになった!SU社へ走るが「別便への変更はA社の責任だ」と言う。A社へ。なんとA社はフライトキャンセルを知らなかった。「航空会社はチケットを販売した旅行社に連絡なんかしてくれない。お客は当日空港でその便がないことを知って驚く」のがロシア流。A社はB社へ飛脚。ところがB社のオペレータは仕事をする気がなく「できない」という。A社はSU社こそ責任があるからそちらに行けという。「私たちは発券元ではない」といってSU社に電話一本してくれない。再びSU社へ。お客の私が頼み込んで別便に変更してもらう。一件落着のはずだったが、その1ヵ月後、ロシア人伴奏ピアニストが「シェレメチエボ空港1から2へ、2時間半では乗り換えできない、ドモジェドワ空港を使用するS7にルート変更してほしい」と言い出した。「SU社は1時間半で乗り換え可能と言っています」と言うと、「言っているだけ。ロシアでは誰も責任をとらない」と言う。事実1月半ばに音楽院のG教授がポーランドに行った時、シェレメチェボ空港の税関を人の行列のために2時間で通過できず、飛行機に乗り遅れ、空港で夜明かしした。でも、ルートについては2ヶ月前からその都度相談して決めたじゃないですか、先生!ロシア人が先のことを計画するのは不可能だった。