田中ひろ子のノボシビルスク通信(3)
(「日本とユーラシア大阪府連版」2009年1月15日号掲載)

弦楽器にも必要な「パスポート」

日ユ協会の皆様、こんにちは。今月もロシアに残っている「悪しき古きもの」をご紹介しましょう。それは弦楽器のパスポート制度です。空港などで出入国の際、いわゆる高価品を税関に申告して証明してもらうのはいずれの国でも当然ですが、ロシアをふくむCIS諸国の税関では弦楽器が常にトラブルの原因になるのです。日本からロシアへ入国する際に弦楽器の特徴を詳しく書いて税関に申告しておかなければなりません。それがないと帰国の際に「これは日本からもってきた自分の楽器だ!」といくら泣き叫んでも税関で没収されます。またロシアから他のCIS 諸国に行く場合(たとえトランジットであれ)楽器のパスポートがなければ税関で取り押さえになり、コンクールにバイオリンなしで参加するはめになります。杏菜はまだ子供であるため、次々にバイオリンと弓がサイズアップしていきますが、そのつど次の出国に備えて楽器のパスポートを作ります。その手順は、まずロシア連邦文化省の文化財保存局に行って申請書と鑑定書用紙をもらい、鑑定家のところに行ってサイズや特徴、材質、製作時期などを鑑定してもらい、次に全く別のところにある支払所にお金を払いに行き、規定どおりに3方向から撮った写真3枚を用意して、これら全てを文化財保存局に提出し、一週間待ってパスポートを発行してもらいます。もしも楽器が50年以上前に製作されたものなら、さらに「持ち出し許可証」を出してもらわなければ出国できません。パスポートには「ロシア連邦の文化財をロシア領土から持ち出すことに関する法律による」と書いてあります。日本で購入した自分の楽器が、何故「ロシア連邦の文化財」となるのか不思議ですが、このパスポートはロシア・CIS諸国の税関で「水戸黄門のご印籠」の威力を発揮するので侮れません。