単独の小学校として建て替えて!
〜保護者・地域と一緒にたたかった宇治小「小中一貫校」建設反対の取組〜
宇治久世教職員組合書記長 田中正浩
 

教育委員会の性急な提案と「『小中一貫校』を考える会」の発足


 宇治市教育委員会はこの間、学校の統廃合を検討してきたが、2005年3月「学校規模適正化検討懇話会」答申、2006年3月「小中一貫教育基本構想検討委員会」提言を経て、2007年11月「宇治市小中一貫教育と学校規模等適正化の方向〜NEXUSプラン〜」を発表するに到った。
 2008年1月、久保田市長が「小中一貫校については学校の建て替え計画の中で地域の意見を聞き『一貫校にしてくれ』というのが出てくれば第1号にします」と発言*1。その数日後、新しい宇治小学校づくり委員会*2が「条件整えば小中一貫校に」と市に要望書を提出するなど、事態は急展開を見せた。
 宇治久世教組はこうした一連の動きをホームページ*3等で広く明らかにすると同時に、「まさに市教委、市長、『会』、三位一体となった連係プレー」等と批判。宇治小「小中一貫校」を考える会*4を発足させ、保護者・地域を対象に懇談会を開くことを決めた。
 2月29日に開いた懇談会では、宇治市教委の考えている小中一貫教育とはどのようなものなのか、予想されるメリット・デメリットとともに、先行している品川区の実態を報告。参加者からは「説明不足、何も知らされていない」「育友会ではそんな話はなかった」等の「手続きがおかしい」という不満の声と同時に、もしも一貫校になった場合どうなるのかという不安の声がたくさん出された。そして、西小倉地域の例*5、大久保小の例*6に見られるように、計画変更はこれからの運動次第だということで、まずは情報を広く正確に伝える場の設定を求めていくこと、その上で@宇治小を早期に建て替えよ、Aマンモス校解消のために中学校をもう1校建設せよ、B小中一貫校については時間をかけて検討せよ、という要求を掲げていこうということになった。

保護者の不安と「考える会」の取組

 実態が明らかになればなるほど保護者の不安はふくらみ、5月19日の市教委主催の学校説明会には180人もの保護者らが参加。市教委は一方的に説明をした後、参加者から出た質問に「それも含めてこれから検討していく」としか答えられず、ますます保護者の不安を募らせた。
 
 推進協議会*7が4月に発足し、カラー刷りの広報が次々と発行される中、考える会は7月4日に第2回懇談会を開き、この間の動きを報告した。参加者からは「学校側からはメリットばかり聞かされる」との不満や「わが子が実験台に使われるのではないか」など、不安の声が続出した。保護者らが複数の懇談会を持ち、考える会としても9月に第3回地域懇談会を開いた。
 懇談会では宇治小の敷地は宇治市で最も狭い中学校よりも狭いことを示し、1,000人規模の小中一貫校では子ども達がのびのび活動できない、クラブ活動や地域のスポーツクラブの活動にも支障が出るなど、予想される問題点を指摘した。保護者からは「声を上げていかなくては大変なことになる」「もっと多くの保護者や地域の人に知らせ、みんなの声を集めて要望を上げていこう」という意見が出され、その場で要望署名に取り組むことが決まった。
 
 10月1日から署名活動を開始。順調に増え続ける署名数に確信を持った考える会は、11月4日記者会見を開き、1万人を目標に12月上旬に署名を提出すると宣言した。
 12月7日投票の宇治市長選挙でもこの問題が争点として浮かび上がった。市民ネット*8の攻勢に久保田市長は言い訳と組合攻撃に終始。「反対されている先生の中には、子ども達の教育のことより、自分たちの負担が増えるから、反対」などと中傷した。一方、ネット主催の集会や個人演説会に弁士として考える会の保護者が立ち、訴えた。新聞各紙も争点として取り上げ、選挙を通してこの問題は広く市民の知るところとなった。現職は51.9%の獲得にとどまり、多くの批判票を投じられることとなった。署名は投票日の2日前には1万筆を突破。宣言通り、12月11日に市長・教育長に提出した*9
 
 年度が替わり今年4月、考える会は「ぶっちゃけ会」という名の懇談会を持った。宇治小では小中一貫校への移行をにらみ、高学年での「専科制」を取り入れたカリキュラムがスタートしていた。保護者からは「高学年は関係ないと思っていたら、もう始まっている。子どもが担任の先生に話しづらいみたいだ」との声が出され、現場の教師からは5,6年の先生が夜遅くまで学校に残り、打合せや教材研究をしている実態が報告された。
 懇談後、宇治小を視察。雨の中約20名の参加だったが、いくつかの問題点が浮かび上がった。元々狭い場所に無理に押し込めようとしたため、様々な矛盾点が出てくる。教育的視点というより財政的視点から出てきたと思われる「NEXUSプラン」には多くの問題点があり、子ども・保護者や教職員の「いい教育を」という願いとの間に大きな矛盾を抱えていた。

「夢ある学校を作る宇治連絡会」の結成と取組
 
 宇治小保護者の自主的な動きも活発化した。6月から9月にかけて育友会に対し臨時総会の開催を求める運動、8月から9月にかけて宇治小の敷地拡大を求める請願署名が展開された。別々に活動していた保護者だったが、10月からは共同で宇治小の単独建て替えを求める請願署名に取り組むことになり、この活動を応援するために「夢ある学校をつくる宇治連絡会*10」(つくる会)が結成された。
 11月にはつくる会が土曜日ごとに4回の統一行動を行った。戸別訪問や駅頭で署名を呼びかけたり、宣伝カーの運行、無料情報誌へのビラ折り込みなど、地域に広く宣伝した。「(「一貫校」建設に)賛成の人はほとんどいなかった」「近所の人はみんな反対だと言っている」「駅でこんなに多くの署名協力があったのは初めて」など、参加した延べ100人近い教職員、保護者にとって手応えを感じる行動となった。
 15日には「つくる会」の主催で「何でも聞いてみよう会」という懇談会を開催し、保護者、地域住民、教職員90名が参加し、意見交換と学習をした。
 前年の教訓もあり、地域を中心に2万筆集めようと意気込んで活動した結果、12月15日には14,506筆*11の署名を添えて請願書を提出することができた。翌16日の文教福祉常任委員会には会場あふれる保護者が傍聴に訪れ、審議を見守った。3時間超の審査は「不採択」という残念な結果となり、20人の傍聴者は口々に市教委のかたくなな姿勢や党利党略にこだわる議員に対して怒りを露わにしていた。

*108年1月1日付『城南新報』
*2新しい宇治小学校づくり委員会…07年9月、宇治小学校の育友会、教育後援会、学区福祉委など24団体で発足(蔀正永委員長)
*3http://www.ujikuse.jp/
*4宇治小「小中一貫校」を考える会…08年2月発足。宇治久世教組と同宇治小分会、宇治小保護者、地域住民で構成。「ニュース会員」は現在約300人。
*504年10月に出された3小・1中を統合し45学級・1500人規模の小中一貫校を西小倉地域に建設するという計画が住民の強い反発を招き頓挫した。
*6大久保小学校の老朽化に伴う建て替えに際し、消防署分署を敷地内に移転、「合築」する計画が、育友会、自治会、育成保護者会など多くの市民の反対で05年12月に撤回された。宇治久世教組は「大久保小学校の建て替えを考える会」に結集し、この運動の先頭に立った。
*7宇治市小中一貫教育推進協議会…08年4月発足した、宇治市の小中一貫教育のあり方を話し合う市の組織。会長は高乗秀明氏(京都教育大教授)
*821宇治市民ネットワーク…市民が主人公の宇治市をつくるために労働組合、各種団体が結集した組織。08年市長選挙では宮本繁夫氏を擁立した。
*909年2月6日に追加提出(合計11,024筆)
*10夢ある学校をつくる宇治連絡会…宇治久世教組をはじめとする労働組合や新婦人宇治支部など計12団体の加盟で09年10月に発足
*11その後追加提出を含め本会議採決時点で合計16,553筆。