あんなのノボシビルスク留学記(8)
(「日本とユーラシア」2008年8月15日号掲載)
特別音楽学校の特殊カリキュラム
日ユ協会の皆さん、こんにちは。今回は特別音楽学校の特殊カリキュラムについてお話します。
ダンス、古典文学、コンサート実習まで
まずひとつは1年生(または小学校入学前の予備クラス)から始まる週2回の「ソルフェージュ」の授業です。ここには階名唱法だけでなく、聴音と音調・インターバル・和音の理論も含まれます。この他に1年生から3年生は「音楽鑑賞」という科目があり、これが4年生からは「音楽史」にかわります。音楽だけでなくバレエやオペラの歴史についても詳しく習います。7年生からはさらに「音楽基礎理論」が加わり、それが9年生から「ハーモニー」という科目にかわります。ここで自由に作曲する能力を養います。上級生になって将来の職業を演奏家ではなく音楽学者を選択する場合は、さらに「音楽作品分析」という科目が追加されます。週1回のダンスの授業は1年生から8年生までで、社交ダンスの各種ジャンルに加えてジャズダンスも習います。年度末にはダンス・コンクール(試験)がおこなわれ、学校の大きな行事になっています。上級生になると「舞台マナー」という授業もあり、コンサートの司会進行の訓練もおこなわれます。また面白いのは「文学」の授業に大変力点がおかれていることです。ロシア語(つまり日本でいう国語)とは別に文学という授業があり、1年生からの「ロシア文学」に加えて5年生からは「世界文学」という科目が始まります。ちなみに杏菜は今4年生(11歳)で9月から5年生に進級するのですが、夏休みの宿題に実に指定32作品の読破が課されています。その中にはホメロスの「イリアス」、「オデッセイア」、ソフォクレス「アンティゴネ」、アリストファレス「雲」、ギリシア神話集が含まれており、ハイレベルの要求に驚くばかりです。
カリキュラムでもうひとつ特記すべきはロシアのコンサート・システムです。プロ演奏家育成のためにはコンサートという実習が不可欠なので、新学期になると特別校は多くの公共文化教育機関と「年に何回」というコンサート契約を交わします。費用はすべて国からの予算で賄われます。ノボシビルスクには音楽院のほかに、音楽院付属リツェイ、杏菜が在学中のノボシビルスク特別音楽学校、ムーロフ名称音楽専門学校があり、コンサート基盤は充実しています。杏菜はノボシビルスク音楽院のマリーナ・クージナ教授の生徒なので、学校の枠にとらわれず、さらに多くのコンサートの機会に恵まれ、今年度(2007年9月から2008年5月)は13回の舞台をこなしました。11月にはノボシビルスク・フィルの室内楽ホールで、チャイコフスキーの「メロディ」を、2月にはシベリアの近隣都市ケメロボの第1音楽学校でブルッフのバイオリン協奏曲第1番、第2、3楽章とヴェニヤフスキーの「スケルツォ・タランテラ」を、3月には音楽院大ホールでバッツィーニの「ロンド」を演奏しましたが、なんといっても今年の最大の喜びは、5月11日にノボシビルスク・フィルの大オーケストラとの共演でメンデルスゾーンのバイオリン協奏曲ホ短調第1楽章を演奏したことです。マリーナ先生にも「上手に弾けたね。これほどオーケストラ団員に気に入られた生徒はかつてなかった。」と最高の褒め言葉を頂きました。
日本の家族と離れての生活はあまりにも犠牲が大きく辛いのですが、サンタさんの守りの中で、苦しみを舞台での喜びに変えて、今後も日々精進に努めていきたいと思っています。読者の皆さん、1年間お付き合いいただき有難うございました。
(おわり)