あんなのノボシビルスク留学記(7)
(「日本とユーラシア」2008年7月15日号掲載)


「ビオラ・ド・アムール」現代楽器として生かす

 日ユ協会の皆さん、こんにちは。今回はノボシビルスク音楽学校のアルト科で教えられている珍しい弦楽器ビオラ・ド・アムール(愛のビオラ)についてお話しましょう。まず名前による混乱がないように説明しますが、日本をはじめ西側諸国ではバイオリンの次にサイズの大きな弦楽器を何故かビオラと呼んでいるのですが、ビオラ族とバイオリン族は構造の違う全く別の楽器です。ロシアでは混乱のないようにバイオリン族は、バイオリン、アルト、チェロ、コントラバスと呼んでいます。17世紀の終わりころ、それまで貴族の家の部屋でおこなわれていた音楽会が徐々に大きな特別のホールでおこなわれるようになると、音量の小さいビオラ族はバイオリン族に負けて徐々に演奏会の舞台から消えていきました。

 ビオラ・ド・アムールはビオラ族の一員として最後に作られた楽器で、この楽器だけは18世紀もヨーロッパ中で演奏され、愛され続けました。ビオラ族唯一の生き残りといえます。構造の特徴は演奏弦7本の他に共鳴弦が7本あることで、音色は美しく豊富。バイオリンとギターとハープのいずれにも似ているといえます。各弦の間隔が狭いため、二重音や和音を容易に美しく響かせることができます。また伴奏メロディーを弓で弾き、テーマメロディーをピチカートで同時に弾くことも可能です。

 ノボシビルスク音楽学校ではアルト科のY.N.マズチェンコ音楽院教授が、アルトと平行してビオラ・ド・アムールの指導にあたっています(彼は現在のロシアでビオラ・ド・アムールのただ一人の指導者)。ビオラ・ド・アムールの大きさがアルトに近い(したがって弦上の指の押さえ場所の距離が近い)ということと、音域が共通なためアルト記号で書かれた楽譜を使用することがアルト科のカリキュラムに入っている主な理由ですが、なによりもI.S.バッハ、A.ヴィヴァルディ、G.テレマン、K.スタミツなどの作曲家達がビオラ・ド・アムールのために書いた作品があり、ソロ・レパートリーが少ないというアルトの問題を解消してくれるのです。共鳴弦を演奏弦として使用することでアルト奏者の高音域に対する欲求を満たし、また多様な奏法が可能なためアルト奏者の技術力・芸術性向上を促進するという長所もあります。

 ヨーロッパではビオラ・ド・アムールはもっぱら古楽器として扱われているのに対し、マズチェンコ教授は弓のほかにバチや指にはめるツメをつかって音の響きの長さを変えたり、小さな細い棒などを用いて共鳴弦を演奏弦として使用したり、ピチカート奏法を中心に新しい奏法を次々と開発し、新しい作品を書いてコンサートをおこなうなど、ビオラ・ド・アムールを現代楽器として扱っています。近年モスクワ、リトアニア、スペインでも大きな反響を呼びました。